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水戸地方裁判所 昭和52年(ワ)282号 判決 1983年9月05日

原告(反訴被告) 株式会社クロレラライト本社

右代表者代表取締役 長尾四郎

右訴訟代理人弁護士 坂東司朗

同 坂東規子

被告(反訴原告) 株式会社 クロレラ工場

右代表者代表取締役 杉村伍一

右訴訟代理人弁護士 朝倉正幸

主文

一  本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金二四三万九〇〇円及びこれに対する昭和五〇年四月二六日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  本訴原告(反訴被告)のその余の請求及び本訴被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。

四  この判決は第一、三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立

(本訴について)

一  本訴原告(反訴被告)

1 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、金二五二万二、九〇〇円及びこれに対する昭和五〇年四月二六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。

3 仮執行宣言

二  本訴被告(反訴原告)

1 本訴原告(反訴被告)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

(反訴について)

一  反訴原告(本訴被告)

1 反訴被告(本訴原告)は、反訴原告(本訴被告)に対し、金二、〇〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴被告(本訴原告)の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴被告(本訴原告)

1 反訴原告(本訴被告)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告(本訴被告)の負担とする。

第二主張

(本訴請求について)

一  本訴請求の原因

1 本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)及び本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、ともにクロレラ食品の製造・販売を業とする株式会社である。

2 原告は、被告に対し、昭和四九年九月二日から一〇月末日までに別表記載のとおりクロレラライト原液等(以下「本件物品」という。)を売り渡した。

よって、原告は、被告に対し、右代金二九四万二、九〇〇円から支払ずみの四二万円を差し引いた残金二五二万二、九〇〇円及びこれに対する本件物品引渡後の昭和五〇年四月二六日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求の原因に対する認否

1 本訴請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、残代金額は否認し、その余は認める。残代金額は二四一万三、七〇〇円である。

(反訴請求について)

一  反訴請求の原因

1 クロレラライト原液の供給停止による損害賠償請求について

(一) 被告は、原告との間に、昭和四五年一〇月左記要旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) 原告は、被告に対し、クロレラライト原液を継続的に供給する。

(2) 被告は、同人の工場において、右クロレラライト原液を希釈し、容器に収納して、「クロレラライト」という商標を使用して販売する。

(3) 原告が被告に対して供給するクロレラライト原液の価格、その他の取引条件は、別途協議のうえこれを定める。

(4) 被告が、本契約に違反したときは、原告は本契約を解除することができる。

(5) 原告が理由なくクロレラライト原液の供給を停止し、又は一方的に本契約を解除した場合には、原告は被告に対し損害賠償の責任を負う。

(6) 本契約は、原告又は被告が倒産するなど、やむを得ない事情のあるとき又は原告と被告が解約に合意したときを除き存続する。

(二) 被告は、本件契約に基づき、原告から昭和四五年一〇月以降毎月一定量のクロレラライト原液の供給を受け、これを希釈し、容器に収納して、「クロレラライト」という商標を付した商品(以下「クロレラライト商品」という。)を製造して販売していた。

(三) 被告は、本件契約締結後、前項記載の事業を遂行するため、多額の出捐をして製造設備及び従業員の募集をし、広告・宣伝に力を入れて販路の開拓に努めた結果、昭和四九年一〇月末日現在において、クロレラライト商品の販売本数が一日平均少なくとも五、〇〇〇本に達した。

(四) 仮に、本件契約の場合、第1項(一)、(5)記載の特約がなく、また、期間の定めのないときでも、供給を受ける者において相当額の金銭的出捐、販路拡張のための努力をしたときには、商品の原料を供給する者が一方的に解約をするには、供給を受ける者に著しい不信行為等の取引関係の継続を期待し難い重大な事由又はやむを得ない事由が存在するときを除いて、相当の予告期間を設けない限り、解約をすることは出来ないものというべきである。けだし、右のような契約は、期間の定めがないときでも、当事者は、その性質上、相当長期間存続することを期待し、また、供給を受ける者がこれを前提に設備投資をすることが当然予測されるし、右投資が現実になされたときには、契約の安全性が要請されるから、このような場合、供給をする者において自由に解約をすることのできる権利を抑制し、相当の制限を加うべきものであることは、公平の原則乃至信義誠実の原則に照らして当然のことだからである。

(五) ところが、原告は、被告に対し、昭和四九年一一月からクロレラライト原液の供給を停止した。これによって、被告は、クロレラライト商品の製造・販売ができなくなり、一日平均少なくとも五、〇〇〇本の顧客を失った。

したがって、原告は、被告に対し、クロレラライト原液の供給停止がなかったならば得られたであろう相当期間(少なくとも一年間)の得べかりし利益について、損害を賠償する義務があるものというべきである。

損害額は、次のとおりである。すなわち、クロレラライト商品一本当りの利益は一〇円であるから、得べかりし利益は、一か月につき、10(円)×5,000(本)×30(日)=150万(円)である。そして、右損害賠償をすべき相当期間は、少なくとも一年は下らないというべきであるから、被告が被った損害は金一、八〇〇万円である。

2 不法行為による損害賠償請求について

(一) 訴外ノーベル製菓株式会社(以下「ノーベル製菓」という。)は、「ノーベル」という商標につき、左記(1)のとおりの設定登録を受け、この商標権につき、昭和四八年一〇月一六日訴外株式会社ノーベル本社(以下「ノーベル本社」という。)に対し、左記(2)の範囲内において専用使用権の設定をし、ノーベル本社は昭和四九年三月一四日その旨の設定登録を受けた。

(1) 設定登録

登録番号 第六〇九三二六号、出願 昭和三五年五月一〇日、登録 昭和三八年三月二二日、指定商品 第三一類乳製品

(2) 範囲

地域 日本国内全域、期間 右商標の存続期間中、指定商品 乳酸菌飲料

(二) ノーベル本社は、右商標を利用して乳製品(以下「ノーベル商品」という。)を販売する方法として、いわゆるフランチャイズシステムを採用した。すなわち、ノーベル本社の傘下組織として、国勢調査人口約五〇万人当りにつき各一人のセンター長(大卸売業者)を置き、センター長は、その傘下に人口約五万人当りにつき一店のエコープレス所長(卸売業者)を一〇店設けた。エコープレス所長は、さらにその傘下に人口約五千人当りにつき一店のポニーマート店(小売店)を設けた。これらの組織は、ノーベル本社を頂点とする全国的な事業体となり、ノーベル本社は組織の掌握・管理、ノーベル商品を入れる瓶の購入、製造工場(直営)の経営・総務・宣伝などの業務を行ない、直営工場又は協力工場はノーベル本社の指示・管理の下に、ノーベル商品を者センター長、エコープレス店主、ポニーマート店主を通じて、一般消費者に配達供給していた。

(三) 被告は、昭和四八年九月ころからノーベル本社の委託を受けて、ノーベル原液を希釈加工して瓶詰にして製品化し、これをノーベル本社に納入していた。ところが、同社は、昭和四九年一二月二〇日多額の手形不渡りを出して事実上倒産したので、同社を通じてする出荷及び同社からのノーベル原液の入手は不可能となった。

右のようなノーベル商品の供給不能は、当然これの販売により生計を立てていた下部組織であるセンター長、エコープレス業者、ポニーマート店主及びそれらの従業員等多数の者の生活を脅かすことになった。そこで、従前から被告の瓶詰加工したノーベル商品の供給を受けていたセンター長及びエコープレス業者等がノーベル本社を通じて被告に対し従前どおりノーベル商品を供給してくれるように強く要請してきた。そこで、被告がノーベル本社と交渉した結果、同社と被告との間の前記委託加工契約を合意解除したうえ、改めて被告はノーベル本社からノーベル商標の専用使用権を与えられた。そこで、被告は、宇都宮地方において、ノーベル本社との間で前記大卸業者の地位にあった訴外清水勝夫(以下「清水」という。)との間で、昭和五〇年一月二四日、期間五年間のノーベル商品の継続的販売契約を締結し(以下「第一ノーベル契約」という。)、次いで、訴外武田敏雄、同会沢一仁、同村上昌子、同岩村又一ら前述のエコーとの間に、昭和五〇年一月にノーベル商品の供給契約を締結した(以下、「第二ノーベル契約」という。)。このようにして、被告は、昭和五〇年一月末までに、第一ノーベル契約のセンター及び第二ノーベル契約のエコーを通じて、ノーベル商品の顧客を確保し、その数は少なくとも五、五〇〇人に達した。

(四) ところが、原告は、その製造にかかるクロレラライト原液を希釈し、ノーベル商標と同一の商標を付した容器に収納した商品(以下「偽ノーベル商品」という。)を、あたかもノーベル商標の専用使用権があり、かつ、内容もノーベル商品と同一の原液を使用しているかの如く偽ったうえ、前記第一ノーベル契約者清水勝夫(同人は、「株式会社ノーベル宇都宮」と称して営業をしていたが、偽ノーベル商品供給開始のときは、「株式会社共同商販」と名称を変えていた。)及び第二ノーベル契約者村上昌子、岩村又一らに働きかけて、昭和五〇年六月中旬以降被告との取引を中止させたうえ、同人らに偽ノーベル商品を供給してこれを販売させた。さらに、原告は、エコーの取り扱う商品をすべて原告の製造するクロレラライトに切り替えさせた。原告の右行為は、清水と共謀してノーベル商標権を侵害するものであり、また、本件ノーベル契約に基づく債務の履行を妨げる違法な債権侵害行為でもある。

右原告の不法行為に基づく被告の損害は次のとおりである。

すなわち、ノーベル商品一本当りの利益は三円であるから、得べかりし利益は、一か月につき、3(円)×5,500(本)×30(日)=495,000(円)であるところ、本件ノーベル契約の期間は、昭和五五年一月二三日までであったから、昭和五〇年七月以降四年六か月間に亘る得べかりし利益は、少くとも、金二、六七三万円である。

3 よって、被告は、原告に対し、右1の債務不履行に基づく損害賠償として金一、八〇〇万円、2の不法行為に基づく損害賠償として金二、六七三万円の債権を有するところ、本訴において、右1の金一、八〇〇万円及び2の内金二〇〇万円の合計金二、〇〇〇万円及びこれに対する本件反訴状送達の日の翌日である昭和五二年一〇月一日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求の原因に対する認否

1 反訴請求原因1について

(一) 反訴請求原因1、(一)の事実中、クロレラライト原液の売買契約を締結した事実は認め、その余は否認する。原、被告間のクロレラライト原液の売買契約は継続的契約ではなく、個別的売買契約である。

(二) 同1、(二)の事実中、被告が、原告から買い受けたクロレラライト原液を希釈し、容器に収納して販売していた事実は認め、その余は知らない。

(三) 同1、(三)の事実は知らない。

(四) 同1、(四)の主張は争う。本件クロレラライト原液の売買契約は、個別的契約であるから、契約の解除は自由になし得る。

(五) 同1、(五)の事実中、原告が被告に対し、昭和四九年一一月以降クロレラライト原液の供給を停止したことは認め、その余は否認する。被告は、クロレラライト原液供給停止当時、クロレラライトのほか、これと同種のジェフシープレットという商品を製造販売していたものであり、また、クロレラライト原液のかわりに、クロレラ原液を甲府工場から供給を受けて営業を継続してきたから損害は生じていない。

2 反訴請求原因2について

(一) 反訴請求原因2、(一)の事実は知らない。

(二) 同2、(二)の事実も知らない。

(三) 同2、(三)の事実も知らない。

(四) 同2、(四)の事実は否認する。原告は、販売元である株式会社共同商販からの委託に基づき内容物を製造し、かつ、容器を製作したにすぎない。しかも、右共同商販の経営者中島は当時ノーベル商標の専用使用権を有していたところ、被告の主張するノーベル宇都宮の清水は、右共同商販からさらに原告の製造した右商品を買い入れたものであって、同人と原告とは何の関係もない。

三  抗弁

仮に、原、被告間の本件クロレラライト原液の売買契約が継続的売買契約関係であったとしても

(一) 原、被告は、右契約を昭和四九年九月ころ合意解除した。

(二) 原告は、被告に対し、昭和四九年一一月ころ右契約を解除する旨の意思表示をした。これには、次のようなやむを得ない事由があった。

すなわち、原告は被告に対し、昭和四五年末以降クロレラライト原液を販売していたところ、昭和四八年一一月のいわゆるオイルショックのため、クロレラライト原液の原料も入手困難になり、現金で仕入れることによりかろうじてそれが確保される状況であった。ところが、被告は、原告から買い入れたクロレラライト原液を希釈加工して他に販売し、翌月には集金を完了していながら、原告への代金支払は、商品引渡後五か月ないし七か月先の支払期日の約束手形によっていたため、取引に不平等を生じ、原告にとって被告との取引は採算が合わなくなった。そこで、原告は、昭和四八年一二月一〇日付内容証明郵便により被告を含む取引先に対し、以下のとおり通告した。すなわち、

あいつぐ原料の高騰に加え、この度の石油輸入の削減(いわゆる石油ショック)に伴う国内産業構造の根底からの再編成により、諸原料の値上がりは予想以上のものであり、また、現金でも入手困難な実情である。今後、顧客に対して迷惑のかからぬように極力経営努力は続けるが、原料が予想以上に高騰し、今後のコスト要因の変化も把握しかねる状況であるから、当面次の措置を取る。

(イ) 昭和四八年一二月一五日より原液納入価格を左記のとおり改訂する。

P原液 一罐 金五、三〇〇円

H原液 一罐 金五、五〇〇円

(ロ) 毎月の取引の決済は、二か月後満期の約束手形によるものとし、月間の取引金額に見合う約束手形を商品(原液)出荷前に原告宛送付していただきたい。

(ハ) 右の条件にあった約束手形が到着しない場合は、商品(原液)の出荷を停止する。

というものである。

ところが、被告以外の取引先は右申し入れを受諾したが、被告は、右申し入れを拒絶したうえ、昭和四九年九月分と一〇月分の代金に関しては、手形すら交付しなかったため、原告としては、被告との信頼関係は、もはや破壊されたものと判断し、同年一一月以降のクロレラライト原液の供給を打ち切ったものである。

(三) 本件のクロレラライト原液は、原告が独占的に製造しているものではなく、被告は必要があれば他の業者から容易に供給を受けられるものである。したがって、原、被告間の本件クロレラライト原液の売買契約の場合には、被告の主張するように解除権を制限する必要は全くないから、原告は、自由に解除し得るものというべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁(一)の事実は否認する。

2 同(二)の事実中、被告が昭和四五年末以降原告からクロレラライト原液を購入していたこと、被告から原告への代金の支払が、商品引渡後、五か月ないし七か月先の支払期日の約束手形によっていたこと、昭和四九年九月分と一〇月分の代金決済のための手形の交付をしなかったことは認める、被告が原料を現金で仕入れていたことは知らない。その余の事実は否認する。なお、原告の主張する支払手形の授受については、原告が取り立てる旨の合意が成立していたので、これを被告が持参しなかったからといって債務不履行にはならず、従って、これをもって信頼関係が破壊されたとはいえない。

3 同(三)の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本訴請求について

1  本訴請求原因1の事実、同2中残代金額を除くその余の事実については当事者間に争いがない。

2  そこで、右残代金額について検討する。

原告は、被告に売り渡した本件物品の単価が別表記載のとおりである旨主張する。ところが、《証拠省略》によれば、本件物品の昭和四九年九月分の単価が同表記載のとおりの金額で原、被告間に合意が成立したことが認められるものの、同年一〇月分の本件物品の単価については、《証拠省略》を総合すれば、原告が被告に対し、本件物品の単価を昭和四九年一〇月以降別表一〇月分記載の金額のとおり値上げする旨の意思表示をしたことが認められるが、被告がこれを受諾したことを認めるに足りる証拠は全くない。したがって、右値上げしたことを前提とする原告の本訴請求部分は失当として排斥を免れない。してみれば、昭和四九年九月、一〇月分の本件物品の売掛代金額は合計二八五万九〇〇円(一〇月分の単価を九月分と同額として計算)であることが明らかであり、右金額から原告が自認する既払分四二万円を差し引くと、残代金額は二四三万九〇〇円である。

二  反訴請求について

1  まず、クロレラライト原液の供給停止による損害賠償請求について判断する。

(一)  原告と被告との間の昭和四九年一〇月付クロレラライト原液売買契約に基づき、原告が被告に対し、同月以降、クロレラライト原液を販売していたこと、被告が右クロレラライト原液を希釈し、容器に収納して他に販売していたこと、原告が、昭和四九年一一月以降クロレラライト原液の供給を停止したことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原、被告間でなされた右取引が、いわゆる継続的売買契約であるか否かについて検討する。

《証拠省略》によれば、それぞれ乳酸菌飲料の製造販売をしていた原、被告は、東京所在のサンユーという商号の資材販売会社と取引をしていたところ、同社の代表取締役清水某の慫慂により、原告は被告に対し、クロレラライト原液を販売することになり、昭和四五年一〇月から期間を定めずに供給を開始することになった。当初は、被告からの注文により毎週原液一斗罐一本宛供給をしていたが、順次その取引額は増大し、昭和四九年ころには取引額は月額一〇〇万円に達した。代金の支払方法については、被告から、経営が苦しいので将来は支払期間を短縮するから当分の間は数か月先の支払期日の手形でさせて貰いたい旨の要望があったので、結局、代金の一部を現金で、残金を納品後五か月後満期の約束手形によってなされていた。

原、被告の右取引は、原告が原液の供給を停止した昭和四九年一一月まで継続したが、その間単価の改訂が二度行なわれた。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》。

ところで、いわゆる継続的売買契約とは、当事者の一方が、他方に対し、一定の条件で商品等を継続的に供給することを主体とした一種の売買契約と解しうるところ、前記当事者間に争いのない事実及び認定事実を併せ考えると、原、被告間に取引が開始された昭和四五年一〇月、将来にわたり、被告から原告に対し、その製造するクロレラライト原液の供給を求め、原告は、これに応じ一定の代金をもって被告に引き続き供給することを内容とする、期間の定めのない、いわゆる継続的供給契約(以下「本件継続的供給契約」という。)が成立したものと認めることができる。

なお、被告は、本件継続的供給契約の内容は、反訴請求原因1、(一)、(1)ないし(6)のとおりである旨主張し、乙第四号証(契約書)の記載及び被告代表者本人尋問の結果は、右主張に副うが、一方、乙第四号証には、原、被告の署名捺印がないうえ、《証拠省略》によれば、乙第四号証は、原告の契約書用紙ではあるが、これは、被告が、他の取引会社と契約をするためのサンプルに供するためと称して原告から貰い受けたものであることが認められるので、これらの事実に照らすと、前記乙第四号証の記載及び被告代表者本人尋問の結果は到底採用することはできないものというべきである。他に、本件継続的供給契約の内容が被告の主張どおりであることを認めるに足りる証拠はない。

(三)  ところで、原告が、被告に対し、昭和四九年一一月以降クロレラライト原液の供給を停止したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は、被告との間の本件継続的供給契約を解除する趣旨で右供給を停止したことが認められるので、右事実によれば、原告は被告に対し、昭和四九年一一月に右契約(これが期間の定めのないものであることは、前記のとおりである。)を、将来に向って、黙示的に解除(告知)したものと認めることができる。

(四)  そこで、原告の抗弁について、以下検討する。

(1) 抗弁(一)の合意解除については、これを認めるに足りる証拠は全くない。

(2) 次に、同(二)の本件継続的供給契約を解除するにつき、やむを得ない事由があったか否かについて判断する。

ところで、期間の定めのない継続的供給契約においては、原則として、当事者の一方は、いつでも契約を将来に向って解除(告知)しうるものというべきであるが、その契約の種類、性質に応じて、相当の予告期間を設けるとか、相手方にとって不利でない時期にこれをなすべきものであって、予告期間を設けず、あるいは相手方にとって不利な時期に解除をした当事者は、右解除により相手方に生じた損害の賠償をなすべきものであることは、契約の性質上当然であって多言を要しないであろう。しかし、やむを得ない事由がある場合は、たとえ前記予告期間を置かず、また、相手方にとって不利な時期において解除をした当事者は、これにより相手方に生じた損害の賠償義務を負わないものというべきところ、本件継続的供給契約は、前記二、1、(二)記載の経緯のもとに成立したが、さらに、《証拠省略》を総合すると、次のとおり認められる。

(イ) 原、被告間の取引は、取引開始以降昭和四八年一〇月ころまでは順次その取引額を増大し、一応順調に行なわれていた。ところが、代金の支払場所については格別約定はなかったが、被告は、原告が毎月電話で代金の送付を要求しても、これに応じないことが多く、支払わなければ原液の供給を停止する旨警告すると滞っていた代金の一部を支払うという状況であったので、原告代表者長尾四郎は、やむなく、所要で上京するときに、ついでに水戸へ立ち寄って受領していた。ところで、昭和四八年一一月のいわゆるオイルショックのため、クロレラライトの原料の値段も三、四倍にはね上がったうえ、従前、手形で購入していた品物も現金払いでも入手が困難になり、原告は苦境に立たされた。これに対し、被告は、販売先からは納品した翌月に代金を回収しているにもかかわらず、原告への支払は前記の将来期間を短縮する旨の約束に反し、相変わらず五、六か月先満期の手形を交付してなしていた。そこで、原告は、昭和四八年一二月ころ、被告を含む取引先に対し、右原告の事情を説明したうえ、同年一二月二五日からクロレラライトのP原液を一罐につき金五、三〇〇円、H原液を一罐につき金五、五〇〇円に値上げし、かつ、手形の支払期日を二か月に短縮すること、仮に、これに応じない場合は、原液の供給を停止する旨通告した。

(ロ) ところが、被告以外の取引先は、原告の右申し入れを受諾したにもかかわらず、被告は、これを便乗値上げであると称して拒絶し、また、電話で手形の送付を要求しても応じようとしなかった。そして、原告代表者長尾四郎が右値上げと支払期間の短縮について折衝し、かつ、手形を受領するため被告方を訪ねたところ、そのころ、被告は経営状態が悪化していたこともあって、被告代表者杉村伍一は、裏口から逃げて原告代表者に会うのを避けたので、同人は、被告に対しいよいよ不信感を募らせた。しかし、結局、被告は、原告に対し、昭和四九年八月分までは右値上げ分に応じた金額を支払った。ところが、さらに原告は、被告に対し、昭和四九年一〇月七日以降納品したクロレラライトP原液を一罐につき金五、八〇〇円、H原液を一罐につき金六、〇〇〇円に値上げする旨通告したところ、被告は、これに応じないのみならず、同年九、一〇月のクロレラライト原液の代金相当分の手形の交付要求にも全く応じなかった。

《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、本件継続的供給契約の解除にあたり、原告が被告に対し、相当の予告期間を設けていないことが認められる。しかし、右認定の契約解除に至るまでの経緯に鑑みれば、右解除は予告期間こそ設けなかったが、決して不意打ち的なものではなく、むしろ、被告にとって当然予想されたものということができる。また、右解除が被告にとって不利な時期になされたとしても、これはやむを得ない事由があったものと断定せざるを得ず、したがって、解除は有効というべきである。よって、その余の点について判断するまでもなく、被告は、原告に対して、右解除をなしたことによるいかなる損害賠償義務をも負うべき筋合いはないものといわざるを得ない。

2  次に、不法行為による損害請求について検討する。

《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  前記ノーベル製菓は、「ノーベル」という商標につき、左記(1)のとおりの設定登録を受け、この商標権につき、昭和四八年一〇月一六日前記ノーベル本社に対し、左記(2)の範囲内において専用使用権の設定をし、ノーベル本社は昭和四九年三月一四日その旨の設定登録を受けた。

(1) 設定登録

登録番号 第六〇九三二六号、出願 昭和三五年五月一〇日、登録 昭和三八年三月二二日、指定商品 第三一類乳製品

(2) 範囲

地域 日本国内全域、期間 右商標の存続期間中、指定商品 乳酸菌飲料

(二)  ノーベル本社は、右商標を利用して前記ノーベル商品を販売する方法として、いわゆるフランチャイズシステムを採用した。すなわち、ノーベル本社の傘下組織として、国勢調査人口約五〇万人当りにつき各一人のセンター長(大卸業者)を置き、センター長は、その傘下に人口約五万人当りにつき一店のエコープレス所長(卸売業者)を一〇店設け、エコープレス所長は、さらにその傘下に人口約五千人当りにつき一店のポニーマート店(小売店)を設けた。これらの組織は、ノーベル本社を頂点とする全国的な事業体となり、ノーベル本社は、組織の掌握・管理、ノーベル商品を入れる瓶の購入、製造工場(直営)の経営・総務・宣伝などの業務を行ない、直営工場又は協力工場はノーベル本社の指示・管理の下に、ノーベル商品を各センター長、エコープレス店主、ポニーマート店主を通じて、一般消費者に配達供給していた。

(三)  被告は、昭和四八年九月ころからノーベル本社の委託を受けて、ノーベル原液を希釈加工し、瓶詰にして製品化し、ノーベル本社に納入していた。ところが、同社が昭和四九年一二月二〇日倒産したので、同社を通じてする出荷及び同社からのノーベル原液の入手は不可能になった。そのため、下部組織は事業の遂行に支障をきたし、混乱を生じた。そこで、被告の瓶詰加工したノーベル商品の供給を受けていたセンター長及びエコープレス業者等がノーベル本社を通じて被告に対し従前どおりノーベル商品を供給してくれるように強く要請してきた。そして、被告とノーベル本社が交渉した結果、同社と被告との間の前記委託加工契約を合意解除したうえ、改めて被告はノーベル本社からノーベル商標の専用使用権を与えられるに至った。そこで、被告は、宇都宮地方において、ノーベル本社の前記センター長の地位にあった清水との間で、昭和五〇年一月二四日、期間五年間の前記ノーベル第一契約を締結し、さらに、前記エコープレス店主である武田敏雄、金沢一仁、村上昌子、岩村又一らとの間にも同様の前記第二ノーベル契約を締結した。このようにして、被告は、昭和五〇年一月末日までに、右の者らを通じて、ノーベル商品の顧客を確保し、その数は少なくとも五、五〇〇人に達した。

(四)ところで、原告は、ノーベル本社の倒産に乗じ、種々の手段を用いてノーベル本社の前記販売組織の奪取を図った。そして、ノーベル本社のフランチャイズシステムのセンター長であった訴外株式会社中嶋産業(以下「中嶋産業」という。)の代表者中嶋新二の依頼によりノーベル商標と同一の商標を付した容器を製作し、これに原告が製造したクロレラライト原液を希釈して詰めたうえ、中嶋産業に引き渡し、同社は、これを情を知らない前記第一、第二ノーベル契約者らを通じて、これらの顧客に販売させた。ところが、中嶋産業は、ノーベル商標の専用使用権を有していなかった。

《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、原告の行為は、ノーベル商標の専用使用権及び本件第一、第二ノーベル契約に基づく債務の履行を妨げて被告の債権を侵害する行為であることが明白である。また、前記事実によれば、原告は、乳酸菌飲料の業界の事情に通暁していることが認められるので、中嶋産業がノーベル商標の専用使用権を有していなかったことを知悉していたと推認するに難くない。

ところが、《証拠省略》によれば、被告がノーベル本社から本件ノーベル商標専用使用権の移転を受けたことが認められるものの、これについて設定登録をしたことを認めるに足りる証拠がないうえ、原告が製造した偽ノーベル商品の数量又は同人がノーベル商標の侵害により受けた利益の額を補促させるに足りる証拠もない。さらに、被告は、右ノーベル商標専用使用権の侵害又は債権侵害による損害を裏付けるものとして、右侵害行為前のノーベル商品の販売数から偽ノーベル商品が出回った後のノーベル商品の販売数を差し引いた数字を基礎に損害額を算出して主張しているが、本件全証拠によっても、偽ノーベル商品が出回った期間を確定出来ないうえ、前記認定の事実によれば、偽ノーベル商品が出回ったころは、ノーベル本社倒産による混乱の影響が残っていてノーベル商品の流通に支障が生じていたことが推認しうること、前記各証拠によれば、そのころは、従前の瓶の容器からポリ容器への切り替えの端境期にあって、小売業者が取扱上の便宜から原告の開発したクロレラライトの商標を付したポリ容器に魅力を感じてその使用に大きく傾いたこと等を併せ考えると、ノーベル商品の販売数の減少のすべての原因が偽ノーベル商品の販売にあるものと断定することも出来ない。したがって、結局、被告の右損害賠償の請求は失当として排斥を免れないものというべきである。

原告の画策により、ノーベル商品の販売網を撹乱された被告の心情はわからないわけではないが、本件損害賠償請求権の存否を決めるとなれば、右のように判断せざるをえない。上記認定を動かし、右損害賠償請求に関し、被告の主張事実の全てを認めさせるに十分な証拠はない。

三  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は売掛残代金二四三万九〇〇円及びこれに対する本件弁論の全趣旨によって本件物品引渡後であることが認められる昭和五〇年四月二六日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求める範囲で正当として認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告の反訴請求は、いずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書、八九条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉盛雄)

<以下省略>

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